【質問】
夫の暴力により妻は家を出て行き、夫婦関係が破綻しました。その3年後、妻は別の男性と出会って同棲するようになり、一児ををもうけるに至りました。妻と肉体関係を持ったこの男性に対する、夫による不法行為に基づく損害賠償請求は認められますか。
【回答】
一般論として、夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があります(最高裁昭和54年3月30日判決)。
しかし、本件のように、婚姻関係破綻後に、第三者が夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った場合、最高裁平成8年3月26日判決は、下記のとおり判示して、第三者の他方配偶者に対する不法行為責任を否定しました。
「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。」
そうすると、質問の事例では、この男性は夫婦関係の破綻後に肉体関係を持っていましたので、夫には婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益が既になくなっていました。したがって、この男性は夫に対して不法行為責任を負わないということになります。