【事案の概要】
B医師が無痛分娩のため妊婦Aに対し麻酔注射をしたところ、Aの体内にブドウ状球菌が繁殖したために硬膜外膿瘍、圧迫性脊髄炎にかかった。そこでAはBに対し損害賠償請求訴訟を提起。
【原判決】
Aの硬膜外膿瘍、圧迫性脊髄炎はBのした麻酔注射に起因する、そして、ブドウ状球菌の伝染経路として、注射器具、施術者の手指、患者の注射部位等の消毒の不完全(消毒後の汚染を含む)により、注射器具、施術者の手指、患者の注射部位等に附着していたブドウ状球菌がAの体内に侵入したと認定してBの過失を認めた。
Bは、医師の消毒の不完全について過失があると認めてもどの部分について消毒が不完全であるかを明示しないのは違法だとして上告
【本判決】
原判決は、前記注射に際し注射器具、施術者の手指あるいは患者の注射部位の消毒が不完全(消毒後の汚染を含めて)であり、このような不完全状態で麻酔注射をしたのは上告人(被告)の過失である旨判示するのみで、具体的にそのいづれについて消毒が不完全であったかを明示していないことは、所論の通りである。しかしながら、これらの消毒の不完全は、いづれも、診療行為である麻酔注射にさいしての過失とするに足るものであり、かつ、医師の診療行為としての特殊性にかんがみれば、具体的にそのいづれの消毒が不完全であったかを確定しなくても、過失の認定事実として不完全とはいえないと解すべきである(最高裁・・昭和32年5月10日判決・・参照)。原判決には所論の違法はない。
医師の診療行為の特殊性にかんがみ、過失を構成する事実について一つに特定しなければならないものではないとした最高裁判決です。