【事案の概要】
未熟児網膜症に関する最高裁判決です。昭和44年12月に出生した極小未熟児につき担当医師において光凝固法の存在を説明し転医を指示する義務があるかどうか等が争点となった。
【原判決】
患者Aの請求を棄却し、病院の責任を否定した。Aが上告。
【本判決】
上告を棄却「昭和45年初めにおいては、光凝固法は、本症についての先駆的研究家の間で漸く実験的に試みられ始めたという状況であって、一般臨床眼科医はもとより、医療施設の相当完備した総合病院ないし大学病院においても光凝固治療を一般的に実現することができる状態ではなく、患児を光凝固治療の実施可能な医療施設へ転医させるにしても、転医の時期を的確に判断することを一般的に期待することは無理な状況であった・・光凝固治療の実施時期を的確に判断するためには眼底検査が必要であるところ、未熟児の眼底検査は、眼底の未熟性という検査対象の特殊性からいっても特別の訓練を要する特殊作業であって、本件当時における未熟児の眼底検査についてのB医師の技術水準は、平均的眼科医のそれよりは進んでいたとはいうものの、本症の専門的研究者には到底及ばなかった」「思うに、人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のための実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるが・・、右注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるから、前記事実関係のもとにおいて、・・被上告人の不法行為責任及び債務不履行責任は認められないとした原審の判断は正当であって、その過程に所論の違法はない」
医師の責任は、(学問としての医学水準ではなく)実践としての医療水準を基準として決すべきものとした判決です。