民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が2017年(平成29年)に成立して民法が改正され、この改正民法は、2020年(令和2年)4月1日から施行されました。この民法改正により、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効に関する規定が変更されました。

【改正後の民法の規定】
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
 1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
 2 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

不法行為による損害賠償請求権の「損害及び加害者を知った時から3 年」の主観的な起算点からの時効期間については原則として変更されていません(第724条1号)。
ただ、「不法行為の時から20 年」については、判例上、除斥期間を定めたものとされていましたが、今回の改正で、「時効によって消滅する」と規定され、客観的な起算点からの時効期間とされることになりました(第724条2号)。

したがって、交通事故による物的損害の賠償請求権の消滅時効期間は、これまでと同様、損害及び加害者を知った時から3年間です。

重要な改正は第724条の2です。人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、主観的な起算点からの時効期間が、損害及び加害者を知った時から「5 年」とされたのです。
これは、人の生命・身体に関する利益は、一般に、財産的な利益等の他の利益と比べて保護すべき度合いが強い等の理由から消滅時効期間が延長されたものです。
したがって、交通事故による人身損害(生命または身体を害したことによる損害)の賠償請求権の消滅時効期間は、これまでは損害及び加害者を知った時から3年でしたが、5年となり、5年間は時効消滅しないこととなりました。

【経過措置】
附則35条2項   新法第七百二十四条の二の規定は、不法行為による損害賠償請求権の旧法第七百二十四条前段に規定する時効がこの法律の施行の際既に完成していた場合については、適用しない

つまり、人の生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の短期の消滅時効期間を5年とする特則を設ける改正については、改正民法の施行日である2020年(令和2年)4月1日において改正前の民法による不法行為の消滅時効(「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」)が完成していない場合には、改正後の民法第724条の2が適用されます。

たとえば、2018年(平成30年)1月1日に交通事故に遭って身体に傷害を負い、同年4月1日に損害及び加害者を知った場合には、改正民法の施行日である2020 年(令和2年)4月1日の時点ではまだ3年が経過しておらず、改正前の民法による不法行為の消滅時効が完成していません。したがって、改正後の民法第724条の2が適用され、5年後の2023年(令和5年)4月1日に消滅時効が完成することとなります。

交通事故

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