【事案の概要】
(1) 上告人Yの被用者であるAは,道路上に,普通貨物自動車(以下「Y車」という。)を西側路側帯から北行車線にはみ出るような状態で駐車させ,非常点滅表示灯等を点灯させることもなかった。被上告人X会社の被用者であるBは,そのころ,X会社の保有する普通貨物自動車(以下「X車」という。)を運転して,本件道路を南方から北方に向けて進行し,Y車を避けるため,中央線からはみ出して進行したところ,本件道路を北方から南方に向けて時速80㎞以上で進行してきたCの運転に係る普通乗用自動車と衝突した(以下「本件交通事故」という。)。
(2) Aには非常点滅表示灯等を点灯させることなく,Y車を駐車禁止の車道にはみ出して駐車させた過失,BにはX車を対向車線にはみ出して進行させた過失,Cには速度違反,安全運転義務違反の過失がある。A,B,Cの各過失割合は1対4対1である。
(3) 本件交通事故により,Xは270万3110円の損害を被り,Cは581万1400円の損害を被った。
(4) X車につき,被上告人X共済協同組合(以下「X組合」という。)を保険者として,自動車共済契約が締結されており,また,X車につき,自動車損害賠償保障法により自動車損害賠償責任保険契約(以下,「自賠責保険」といい,自賠責保険に基づいて支払われる保険金を「自賠責保険金」という。)が締結されていた。
(5) X会社とCとの間では,本件交通事故による損害賠償につき示談が成立し,Xは,Cから,36万5174円の支払を受け,X組合は,Cに対し,上記自動車共済契約に基づき,Xに代わって,本件交通事故による損害賠償として474万7654円を支払った。
(6) X会社が本件交通事故による自己の損害額270万3110円のうちY及びCに対して請求し得る額の合計は,自己の過失割合6分の4を控除した6分の2に相当する90万1036円である。
(7) X組合は,Cに支払った損害賠償金につき自賠責保険金120万円の支払を受けた。
Cに損害賠償金を支払ったX組合が保険代位に基づいてYがX会社に対して負う求償義務の履行を求めた。
(1) 上告人Yの被用者であるAは,道路上に,普通貨物自動車(以下「Y車」という。)を西側路側帯から北行車線にはみ出るような状態で駐車させ,非常点滅表示灯等を点灯させることもなかった。被上告人X会社の被用者であるBは,そのころ,X会社の保有する普通貨物自動車(以下「X車」という。)を運転して,本件道路を南方から北方に向けて進行し,Y車を避けるため,中央線からはみ出して進行したところ,本件道路を北方から南方に向けて時速80㎞以上で進行してきたCの運転に係る普通乗用自動車と衝突した(以下「本件交通事故」という。)。
(2) Aには非常点滅表示灯等を点灯させることなく,Y車を駐車禁止の車道にはみ出して駐車させた過失,BにはX車を対向車線にはみ出して進行させた過失,Cには速度違反,安全運転義務違反の過失がある。A,B,Cの各過失割合は1対4対1である。
(3) 本件交通事故により,Xは270万3110円の損害を被り,Cは581万1400円の損害を被った。
(4) X車につき,被上告人X共済協同組合(以下「X組合」という。)を保険者として,自動車共済契約が締結されており,また,X車につき,自動車損害賠償保障法により自動車損害賠償責任保険契約(以下,「自賠責保険」といい,自賠責保険に基づいて支払われる保険金を「自賠責保険金」という。)が締結されていた。
(5) X会社とCとの間では,本件交通事故による損害賠償につき示談が成立し,Xは,Cから,36万5174円の支払を受け,X組合は,Cに対し,上記自動車共済契約に基づき,Xに代わって,本件交通事故による損害賠償として474万7654円を支払った。
(6) X会社が本件交通事故による自己の損害額270万3110円のうちY及びCに対して請求し得る額の合計は,自己の過失割合6分の4を控除した6分の2に相当する90万1036円である。
(7) X組合は,Cに支払った損害賠償金につき自賠責保険金120万円の支払を受けた。
Cに損害賠償金を支払ったX組合が保険代位に基づいてYがX会社に対して負う求償義務の履行を求めた。
【原判決】
1 原審は,概要次のとおり判断して,X組合のYに対する請求を170万6109円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
(1) Cは,本件交通事故による自己の損害につき,自己の過失割合である6分の1を控除した6分の5の限度で,X会社及びYに対して,各当事者ごとの相対的な過失割合に従って損害賠償を請求することができる。したがって,Cは,581万1400円の6分の5である484万2833円を上限として,X会社に対しては581万1400円をCの過失割合5分の1による過失相殺をした後の464万9120円,Yに対してはCの過失割合2分の1による過失相殺をした後の290万5700円を請求し得るものというべきである。
(2) X会社及びYの損害賠償義務が競合する範囲は,上記464万9120円と290万5700円を加え,484万2833円を控除した271万1987円であり,X会社のみが損害賠償義務を負うのは,上記464万9120円から上記271万1987円を控除した193万7133円である。
X会社の負担部分は,上記271万1987円に5分の1を乗じ,上記193万7133円を加えた247万9530円である。
X会社は,Yに対し,Cに対して支払った474万7654円から上記247万9530円を控除した226万8124円を求償することができる。
(3) X組合が支払を受けた自賠責保険金120万円は,X会社のみが損害賠償義務を負う範囲,Yのみが損害賠償義務を負う範囲及びX会社とYの損害賠償義務が競合する範囲に案分して充当される。したがって,上記120万円のうち,X会社の求償金から控除すべき金額は56万2015円である。
(4) よって,X組合は,Yに対し,226万8124円から56万2015円を控除した170万6109円を請求することができる。
【本判決】
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(以下「絶対的過失割合」という。)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(以下「絶対的過失割合」という。)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。
これに反し,各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺をすることは,被害者が共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによって被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる。
(2) 以上説示したところによれば,X会社及びYは,Cの損害581万1400円につきCの絶対的過失割合である6分の1による過失相殺をした後の484万2833円(円未満切捨て。以下同じ。)の限度で不真正連帯責任を負担する。このうち,X会社の負担部分は5分の4に当たる387万4266円であり,Yの負担部分は5分の1に当たる96万8566円である。X会社に代わりCに対し損害賠償として474万7654円を支払ったX組合は,Yに対し,X会社の負担部分を超える87万3388円の求償権を代位取得したというべきである。
なお,自賠責保険金は,被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから,共同不法行為者間の求償関係においては,被保険者の負担部分に充当されるべきである。したがって,自賠責保険金120万円は,X組合が支払ったX会社の負担部分に充当される。
そうすると,論旨はこの限度で理由があり,これと異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
第4 結論
以上によれば,X会社の請求は,Yに対し,53万5862円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,X組合の請求は,Yに対し,87万3388円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,Xらのその余の請求は理由がないから棄却すべきである。したがって,これと異なる原判決を主文のとおり変更する。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(2) 以上説示したところによれば,X会社及びYは,Cの損害581万1400円につきCの絶対的過失割合である6分の1による過失相殺をした後の484万2833円(円未満切捨て。以下同じ。)の限度で不真正連帯責任を負担する。このうち,X会社の負担部分は5分の4に当たる387万4266円であり,Yの負担部分は5分の1に当たる96万8566円である。X会社に代わりCに対し損害賠償として474万7654円を支払ったX組合は,Yに対し,X会社の負担部分を超える87万3388円の求償権を代位取得したというべきである。
なお,自賠責保険金は,被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから,共同不法行為者間の求償関係においては,被保険者の負担部分に充当されるべきである。したがって,自賠責保険金120万円は,X組合が支払ったX会社の負担部分に充当される。
そうすると,論旨はこの限度で理由があり,これと異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
第4 結論
以上によれば,X会社の請求は,Yに対し,53万5862円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,X組合の請求は,Yに対し,87万3388円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,Xらのその余の請求は理由がないから棄却すべきである。したがって,これと異なる原判決を主文のとおり変更する。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
本判決は、「絶対的過失割合を認定する事が出来る場合」は、絶対的過失割合に基づく過失相殺をすると判断しており、相対的に過失相殺を行う旨判断した最高裁平成13年3月13日判決が妥当する範囲を制限したと考えられています。