婚姻を継続し難い重大な事由の判断において、別居期間は重要な事情の1つと言えますが、別居期間が短い場合であっても、その他の事情を総合して、婚姻関係が破綻していると判断されることがあります。

今回紹介する判決は、相手方に心情を深く傷つける行為があったとして、別居期間が1年余りであっても離婚請求を認めたものです。侮辱的言動が婚姻関係破綻の判断に大きく影響を与えることを示すものであり、参考になります。

 

【大阪高裁平成21年5月26日判決】
「原審は、XとYとの別居期間が1年にも満たないことなどから、婚姻を継続し難い重大な事由が認められないとして、Xの請求を棄却した。そのため、Xが本件控訴を提起した。」

「 (1) Xは、昭和55年ころ、貸金の返済の代わりに飲食店(バー)の営業権を引き継ぎ、その店のママとして働くことになったYと知り合った。
    当時、Xは、貿易会社を経営し、先妻Dがいたが、Yと交際し、昭和59年×月×日、その間に長女Cが出生した、Yは、長女が出生したころ、仕事を辞めた。
  (2) Dは、昭和64年×月×日に死亡した。
  (3) XとYは、平成2年×月×日婚姻の届出をし、そのころから、長女と三人で同居するようになった。
    Xは、Yと同居するに際して、Yの求めやこだわりを容れて、自宅マンションを改装し、Dの衣類等生活のにおいを残す主な持物を処分した。そして、Yは、同居に際して、各部屋に札を貼ってお祓いをした後、生活を始めたという経過があった。
  (4) 平成9年、Xが経営していた貿易会社が倒産し、特別清算手続が開始され、Xは、平成11年ころから、貿易関係の会社の顧問として働くようになったこともあって、当初の50万円から逓減したとはいえ、平成19年でも月額30万円の生活費は入れていたが、生活費が減ることにYが不満を募らせ、その多寡を巡ってXと口論になることもあった。
  (5) Xは、平成6年ころから○○○○の持病をもち、平成15年×月、△△△△で手術を受けた。
    Xは、それまでは家族三人がリビングで食事を共にしていたが、退院後は、Yが夕食をトレイでXの自室に運ぶのを待ち、そこで一人で食事をするようになった。また、Yは、Xのために朝食や昼食の準備をしなくなり、Xは、朝食を一人で用意して食べ、昼食は一人で外食をしていた。
    そして、このころから、Yは、長女の勉強の邪魔になるからと言って、Xがリビングに入るのを嫌がるようになり、Xは、自室で一人で過ごすことが多くなり、家族団欒の機会がなくなった。
  (6) Yは、実家が○○宗を信仰していたことなどから、平成10年ころから、毎月、○○宗の○○寺の写経会に通っていた。
    長女は、平成18年4月、○○大学大学院に入学し、同年秋ころから、論文の作成などで自宅で深夜まで勉強をするようになり、それにYが付き合うため、両者の生活は昼夜が逆転するようになった。
    また、このころ、長女は、大学院内でセクシャルハラスメントの被害を受けたとして、精神的に不安定な状況になり、そのことが影響してか、Yは、不浄を払うと称して、自宅の玄関、便所、浴室等に、コップに塩を入れて置いたり、長女と一緒に深夜に○○宗の経を唱えたりするようになった。
    Xは、Yに対して、昼夜が逆転した生活や深夜に経を唱えることを改めるようにとたしなめたが、Yは、「昔の人間は口を出すな。」とか、「大学も出ていないのに、口出しするな。」、「上の階の人も夜中に喧嘩をして騒がしいことがある。」という趣旨のことを言い返すだけであった。Xは,Yの上記のような言動を、宗教的奇行であり、老人扱いをして、家族の一員として処遇しない冷たい仕打ちであると不満を蓄積させながら、リビングに出入りできず、一人で食事をとる生活を続けていた。
  (7) Yは、平成19年ころから、Xの妹の嫁ぎ先の告別式や法要を欠席し、長男の妻の両親の来訪を受けても部屋に閉じこもって顔を見せないなど、Xの親戚縁者を疎んずる傾向が高じていたが、平成20年×月×日、前触れもなく、自宅の仏壇に祀られていた先妻の位牌を、百貨店の紙袋に包んで,長男の妻の実家である△△宅に送り付けた。その位牌の包みには、在米中の長男に送ってほしいとのメモが添えられていたが、もとより,控訴人や長男には一言の相談もないままの行動であった。
    長男の妻の母親は、同月×日、突然位牌を送りつけられたことに驚愕し、長男とXの妹であるFに連絡した。そして、長男は、アメリカからXに電話をかけたが、YがXに電話を取り次がなかったことなどから連絡が取れず、Fに連絡し、Fが、同日、X宅を訪れ、Xに対して先妻の位牌の確認を求めたため、Xが仏壇を調べて、初めて位牌がなくなっていることに気付いた。
    そこで、Xは、Yに位牌の行方を質すと、Yは、平然と、先妻の位牌は子である長男が祀るのが当然であるから、嫁の実家(△△宅)に送って長男に届けてもらうことにしたという趣旨のことを答えた。そこでFが、Xの承諾なく、勝手にそのようなことをするのは筋が違うのではないかなどと口を挟むと、興奮したYは、Fに対して、「○○家のことに口を挟むな。」、「帰れ。二度と出入りするな。」などと悪態を吐き、Fの腕を掴んで、玄関まで引っ張るなどした。
    その後、Xは、△△宅に家族の不始末をわびて、位牌を送り返してもらった。
  (8) Xは、位牌の件でひとり悶々と考えるうち、平成20年×月×日、ふと気になって部屋の中を探したところ、戸棚の中にあったXのアルバム10数冊(Xの両親、親族、学友や戦友との写真などが収められたアルバム1冊のほか、長男の成長過程を撮影した写真のアルバム等が含まれていた。)がなくなっていることに気付いた。
    これらのアルバムのうちの1冊は、長男が米国に持っていっていたが、Yは、平成19年×月ころ、それ以外のアルバムを中身を全く確認することなく、○○寺で行われた大護摩の際に焼却していた。
    Xが、Yにアルバムの所在を尋ねると、Yは、「全部捨てた。」,「Eも嫁も邪魔になるから処分してくれと言っていた。」、「嘘だと思うのなら,電話して聞いてみろ。」などと居直った弁解に終始した。
    Xは、自身の人生史が刻まれたアルバムの焼却という思いもしない出来事に度肝を抜かれ、Yを詰問したが、逆に、Yから、幸せにしてやると言っていたのに、騙されたなどと、Xが経営していた会社が倒産し、生活費も次第に減っていることなどについて責められた。
  (9) 控訴人は、平成20年×月×日,菩提寺の△△寺を訪れて、住職にYのことを相談した。そして、住職から、Yが、平成19年×月末ころ、Xに無断で△△宗の古い教本やXが作成した先祖の過去帳を処分してほしいと持ってきたことを聞いた。
    Xは、Yが何か悪い宗教に取り憑かれているのではと思い、Yが通っていた○○寺を訪れて、住職に相談したところ、○○宗ではそのような教えはしていない、昨年の大護摩のときに、Yが大きな荷物を運び込み、焼却してほしいと頼まれたことがあったと聞かされた。
  (10) 平成20年×月×日、長女の○○大学大学院の卒業式であり、Yと長女は、卒業式に出席したが、Xは自宅にいた。
    Yと長女は、卒業式終了後に、長女のセクシャルハラスメントの問題について学長と話し合っていたことから、帰宅が遅くなり、午後9時30分ころに帰宅した。
    Xは、帰宅した被控訴人に食事を作るよう求めたところ、Yと口論となり、我慢がはじけて自宅を飛び出し、そのまま、弟宅に泊まった。Xは、これまでは、Yに死に水をとってもらおうと、Yの言動にも耐えていたが、位牌の件やアルバムを処分されたことなどから、もはや一緒に暮らしていくことは耐えられないと感じ、離婚を決意し、F宅にしばらく身を寄せた後、ワンルームマンションを借りて別居し、夕食だけはF方の世話になっている。
 2 争点(民法770条1項5号の離婚原因の有無)について
   上記1認定事実によれば、X、Yの結婚生活は、夫婦破綻を来すような大きな波風の立たないまま約18年間の経過をみてきたのに、Xによる今時の別居生活が、平成19年から始まったYの一連の言動が主な理由であるため、双方の年齢、家族関係、婚姻期間等だけをとりあげて論ずれば、いまだ十分に婚姻関係が修復できる余地があるとの見方も成り立ち得ないではない。
   しかし、YのXの親戚縁者と融和を欠く忌避的態度はさて措き、齢80歳に達したXが病気がちとなり、かつてのような生活力を失って生活費を減じたのと時期を合わせるごとく始まったXを軽んじる行為、長年仏壇に祀っていた先妻の位牌を取り除いて親戚に送り付け、Xの青春時代からのかけがえない想い出の品を焼却処分するなどという自制の薄れた行為は、当てつけというには、余りにもXの人生に対する配慮を欠いた行為であって、これら一連の行動が、Xの人生でも大きな屈辱的出来事として、その心情を深く傷つけるものであったことは疑う余地がない。しかるに、Yはいまなお、これらの斟酌のない専断について、自己の正当な所以を縷々述べて憚らないが、その理由とするところは到底常識にかなわぬ一方的な強弁にすぎず、原審における供述を通じて、Xが受けた精神的打撃を理解しようという姿勢に欠け、今後、Xとの関係の修復ひとつにしても真摯に語ろうともしないことからすれば,XとYとの婚姻関係は、Xが婚姻関係を継続していくための基盤であるYに対する信頼関係を回復できない程度に失わしめ、修復困難な状態に至っていると言わざる得ない。
   なお、Yが、子供までなした長年の愛人関係に終止符を打って、先妻を亡くして間もないXとの結婚生活を始めるに当たり、自宅の改装や先妻の生活の痕跡を残す動産類の処分やお祓いにこだわったのは、家庭内に先妻の痕跡を残したまま新たな生活を始めたくないとの妻の心理の発現として、それなりに理解できないではないものであるが、そのような再婚のいきさつを考慮しても、先妻の位牌、先祖の過去帳を中心とする祭祀や、戦前からのX及び一家の写真アルバムの保存等は、Xが再婚に当たってYに配慮すべき事柄とは無関係であって、それゆえ、Yも、これを受け容れて夫婦間の軋轢が生じないまま曲がりなりにも結婚生活が送られてきたものといわねばならず、結婚後十数年も経過して、改めて問題にすベき事柄とは考えられない。
   したがって,別居期間が1年余であることなどを考慮しても、XとYとの間には婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる。
 3 以上によれば、Xの離婚請求は、理由があり、これを棄却した原判決は相当でないから、本件控訴は理由がある。

 

離婚

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