別居期間は、離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」の重要な徴表であるとされています。特段の事由がないのに5年以上別居していると、婚姻を継続し難い重大な事由ありとされる傾向があるようです。
今回、紹介する東京高裁平成29年6月28日判決は、原審では約3年の別居期間で離婚請求を棄却したのに対し、控訴審である本判決では、約3年5ヶ月の別居期間で離婚請求を認めました。
婚姻関係の破綻の有無は、単に別居期間だけで判断されるものではなく、その他の事情も総合考慮して判断されるのですが、本判決は婚姻関係の破綻を基礎づけるその他の事情があったことも考慮して、約3年5ヶ月の別居期間で離婚請求を認めたものと思われます。
別居期間が長くなればなるほど婚姻関係が破綻したと判断されやすくなる以上、離婚したくないのであれば、別居期間中に何もしないのは得策ではなく、夫婦関係の修復に向けて積極的に動く必要があるように思われます。
【東京高裁平成29年6月28日判決】
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、Xの離婚請求は理由があり、未成年者らの親権者はXに指定すべきものと判断する。その理由は、次項以下に記載するとおりである。
2 前記前提事実及び本件各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) Yは、昭和46年○月○日生であり、Xは、昭和55年○月○○日生であって、YとXは、平成16年2月22日、婚姻した夫婦である。Yは、Xが大学卒業後に就職した勤務先の先輩社員であり、両者は職場で知り合い、交際を開始した。
(2) Xは、平成16年3月流産した。Xは、流産後、子供を見ると、おなかの中の子を無事出産してやれなかった罪悪感と悲しみに襲われたが、その思いをYとは共有できず、Xは孤独感をもった。
(3) Xは、平成17年9月頃、長女を妊娠し、平成18年○月○○日、長女を出産した。
Xは妊娠中悪阻がひどく苦しんだが、YにはXの苦しみが伝わらず、XがYに背中をさすって欲しいと頼んでもYはこれに応えず,XはYから無視されたように感じたことがあった。
Yは仕事が多忙で、長女の育児にはおむつ換え程度しか関与できなかったが、XがYに育児の辛さを訴えると、Yは、「お前は子供の面倒を見ているだけだろ。家のことだけだろ。」と言って、育児の辛さに対する理解を示さず,Xは疎外感を持った。
(4) Xは、平成20年○月○○日、長男を出産した。
Xは、長男の妊娠中、長女の世話もしながら、悪阻に苦しんでいたが、Yは家事の手伝いを増やすことや、Xをねぎらうこともなかった。
長男が出生後、Xが長女を寝かしつけているのに、Yが大きな音でテレビを視聴していることがあり、Yに苦情を述べたが、Yはこれを改めないということがあった。
家計をめぐって、XとYが口論になった際に、YはXに対して、「お前に稼げるのか。稼いでもいないくせに。どうせできないだろう。俺は平均以上稼いでいるんだ。」と述べ、専業主婦をしているXの心情を逆なでした。
(5) Xは、平成22年9月、再び妊娠したが、まもなく流産した。
XがYに対して、妊娠したことを伝えても労いの言葉がかけられることはなかった。
Xは、流産したことに自己嫌悪を覚え、家に閉じ籠もっていると精神に変調を来しそうであると思い、気を紛らわせるために就職したいとYに伝えると、Yは、「仕事に行くのであれば,家のことも,もちろんちゃんとやるのだろうな。」と応えた。Xは、Yのかかる言葉を聞き、怒りすら湧かず、孤独と悲しみを強く感じた。
(6) Xは、自分で安定的に収入を得たいと考えて、平成24年4月,看護学校に入学した。
入学後、テストや課題作成のため、XがYに対して、一時的に家事の負担を求めても、Yは、結婚する際に家事は一切しないと言ってある、家事は一切しないなどと述べて、家事の分担を拒否した。Yは、Xが外出する際にスカートを着用しているのを見て、Xに男ができたのではないかと疑う姿勢を示したりもした。Yは、Xの作る食事に対する不満をカレンダーに書き込むようになった。
(7) Yの休日にXが看護学校に通学すると、Yが未成年者らをX不在中にきつく叱り、Xが帰宅すると未成年者らが泣きながらXのもとに駆け寄ってくるという出来事が続いた。Xが、未成年者らを按じて、Yに対して、Yの休日には外出してはどうかと話すと、Yは、「遊びに行けというなら行ってやる。しかし,来月から生活費を減らすからな。その分はお前がなんとかしろ。」と応えた。
(8) Xは、平成26年1月頃、夫婦で口論をした後に、「私がいけないんだよね。」と長女が自らを責める発言をするのを聞いて、Yとの婚姻関係がうまく行かないことによる悪影響が未成年者らに対してまで及んでいると感じ、もはやYとの婚姻関係は維持できないと考えて、Yとの離婚を決意した。
(9) Xは、平成26年1月27日、未成年者らを連れて自宅を出て、Y人とは別居することになった。
(10) Xは、離婚調停を申し立てたが、平成26年7月4日、調停は不調となった。その後、XとYとの間では、復縁に繋がる具体的な動きはない。
3 以上の事実によれば、Xは、Yが9歳年上で職場の先輩でもあったことから、Yを頼りがいのある夫と認識して婚姻し、一方、Yも、Xを対等なパートナーというよりも、庇護すべき相手と認識しつつも、家事は妻が分担すべきものとの考えでXと婚姻したところ、Xは、流産、長女及び長男の出生、2度目の流産を経験するなかで、Yが家事や育児の辛さに対して共感を示さず、これを分担しないことなどに失望を深め、夫から自立したいという思いを強くしていったこと、これに対し、Yは、Xの心情に思いが至らず、夫が収入を稼ぐ一方で、妻が家事育児を担うという婚姻当初の役割分担を変更する必要を認めることができずに、XとYの気持ちは大きくすれ違うようになっていたこと、そうした中、Xが看護学校に行っていて不在の際に、Yが未成年者らを厳しく叱るということなどが続き、XはこのままYとの婚姻関係を継続しても、自らはもとより未成年者らにとっても良くないと離婚を決意するに至り、平成26年1月になって、未成年者らを連れて別居したという経緯が認められ、かかる経緯に加え、別居期間が3年5か月以上に及んでおり、しかも、この間、復縁に向けた具体的な動きが窺えないという事情をも加味すれば、X・Yのいずれかに一方的に非があるというわけではないが、XとYの婚姻関係は既に復縁が不可能なまでに破綻しているといわざるを得ない。
Yは、事柄の背景を考えれば夫婦喧嘩にすぎないもので、離婚原因は存在しないと主張するが、前記のとおり、夫婦の役割等に関する見解の相違を克服できないまま、Xは離婚意思を強固にしており、その意思に翻意の可能性を見いだしがたい上に、既に述べたとおり、別居後は、双方に、今日に至るまで、復縁に向けての具体的な動きを見い出すことができないのであるから、かかる事情に照らせば、既に夫婦喧嘩という範疇に留まるものではなく、離婚原因を形成するものといえ、Yの主張は採用することができない。
Yは,Xが最初の流産をした際にはXに寄り添おうとしたとか、家事や育児についても、Yとしては、仕事との兼ね合いはあるができる限りの協力をしたつもりであるなどと主張するところ、本件においては、Yの主張を裏付けるに足りる証拠はないし、その点を措くとしても、そもそも、Yの主張自体、Yとしては自らができると考えた範囲のことを自らの判断で行ったと主張するものにとどまり、YがXとコミュニケーションをとり、その心情を理解しようと努めたと主張するものではない。Y自身、原審における本人尋問において、夫婦が対等なパートナーという関係ではなかったと述べ、Xから育児の窮状を訴えられた際には,Xが家事しかやってないじゃないかと述べた旨自認しているほか,Xの心情への配慮という点についても,Xの実家が自宅のすぐ近くにあることから、Yはこれといったことはしていないと認めている。
以上によれば、XとYの婚姻関係は既に修復不能なまでに破綻しているものと言わざるを得ない。Xの離婚請求は理由がある。