【質問】
夫の暴力により妻は家を出て行き,夫婦関係が破綻しました。その3年後、妻は別の男性と出会って同棲するようになり、一児ををもうけるに至りました。妻による離婚請求は認められますか。
【回答】
妻は配偶者以外の男性と自由意思で性的関係を結んでおり、不貞行為をしたといえます。しかし、妻が不貞行為を行う前にすでに夫との夫婦関係は破綻していたのですから、妻の不貞行為は夫婦関係破綻の原因となっていません。
このように、有責行為を行ったが、かかる有責行為と婚姻破綻との間に因果関係がない場合、最高裁は、有責行為を行った者からの離婚請求を認めています。すなわち、最高裁昭和46年5月21日判決は、「被上告人は、上告人・・との間の婚姻関係が完全に破綻した後において、訴外・・と同棲し、夫婦同様の生活を送り,その間に一児をもうけたというのである。右事実関係のもとにおいては、その同棲は、被上告人と右上告人との間の婚姻関係を破綻させる原因となったものではないから、これをもって本訴離婚請求を排斥すべき理由とすることはできない」と判示しました。
先般、有責配偶者からの離婚請求についての最高裁昭和62年9月2日判決を紹介しましたが、この判決は、婚姻関係破綻について専ら責任のある者による離婚請求について判断を下したものです。設例のケースのように、夫婦関係が完全に破綻した後に不貞行為をした者が離婚請求を行った場合には、不貞行為をした者の請求であることを理由に離婚請求が否定されることはありません。
ただ、夫婦関係が破綻したかどうかの判断が微妙な段階で不貞行為を行った場合は、相手方から有責配偶者による離婚請求だと主張され、争点となる可能性がありますので、この点はご注意下さい。