【事案の概要】
Aは、大動脈弁閉鎖不全のためB病院に入院して大動脈弁置換術を受けたところ、手術の翌日に死亡。Aの相続人であるXらが、本件手術のチーム医療の総責任者であり、かつ、本件手術を執刀したY医師に対し、説明義務違反等を理由として、不法行為基づく損害賠償請求訴訟を提起。
【原判決】
「本件病院におけるチーム医療の総責任者であり、かつ、実際に本件手術を執刀することとなったYには、A又はその家族であるX人らに対し、Aの症状が重症であり、かつ、Aの大動脈壁がぜい弱である可能性も相当程度あるため、場合によっては重度の出血が起こり、バイパス術の選択を含めた深刻な事態が起こる可能性もあり得ることを説明すべき義務があったというべきである。にもかかわらず、Yは、大動脈壁のぜい弱性について説明したことはなかったことを自認しているものであり、上記説明をしなかったYには、信義則上の説明義務違反があったというべきである。」Xらの請求を一部認容。
【本判決】 破棄差し戻し。
「一般に、チーム医療として手術が行われる場合、チーム医療の総責任者は、条理上、患者やその家族に対し、手術の必要性、内容、危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有するものというべきである。」
「しかし、チーム医療の総責任者は、上記説明を常に自ら行わなければならないものではなく、手術に至るまで患者の診療に当たってきた主治医が上記説明をするのに十分な知識、経験を有している場合には、主治医に上記説明をゆだね、自らは必要に応じて主治医を指導、監督するにとどめることも許されるものと解される。そうすると、チーム医療の総責任者は、主治医の説明が十分なものであれば、自ら説明しなかったことを理由に説明義務違反の不法行為責任を負うことはないというべきである。また、主治医の上記説明が不十分なものであったとしても、当該主治医が上記説明をするのに十分な知識、経験を有し、チーム医療の総責任者が必要に応じて当該主治医を指導、監督していた場合には、同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わないというべきである。このことは、チーム医療の総責任者が手術の執刀者であったとしても、変わるところはない。」
本判決は、チーム医療の総責任者が負う手術についての説明義務の内容に関して初めての判断を示したものです。