【本判決】
上告代理人Zの上告理由第一点及び第二点について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、肯認するに足り、右確定事実によれば、
(一)本件注射と亡Aの死亡との間には因果関係があり、(二)チトクロームCの注射については、それがショック症状を起こしやすい薬剤であり、右症状の発現の危険のある者を識別するには、所論の皮膚反応による過敏性試験は不確実、不十分なものであって、更に医師による本人及び近親者のアレルギー体質に関する適切な問診が必要不可欠であるということが右死亡事故発生当時の臨床医の間で一般的に認められていた、というのである。したがって、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、右薬剤の能書等に使用上の注意事項として、本人又は近親者がアレルギー体質を有する場合には慎重に投与すべき旨が記載されていたにすぎないとしても、医師たる上告人としては、ショック症状発現の危険のある者に対しては右薬剤の注射を中止すべきであり、また、かかる問診をしないで、前記過敏性試験の陰性の結果が出たことから直ちに亡Aに対して本件注射をしたことに上告人の医療上の過失があるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
論旨は、ひっきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は右と異なる見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 
 
 
薬剤の能書に注意事項として、本人又は近親者がアレルギー体質を有する場合には慎重に投与すべき旨が記載されていたに過ぎなかった。そして、過敏性試験の結果が陰性だったことから、問診をしないで薬剤を投与したところ、これに起因するショック症状で患者が死亡した。かかる事案で、問診義務を怠ったとして医師の過失による法的責任を認めた判決です。