【事例】
A(65歳)からの相談:私は、昭和60年にBと結婚し、その後、一人息子のCが生まれました。Cは現在30歳ですが、定職に就かず遊び歩く毎日を送っていて、連絡も取れない状態です。時々ふらっと自宅にやってきて、生活費の援助を求めてきます。
私は、結婚して間もなく購入した静岡市にあるB名義の自宅(土地と建物の時価合計2000万円)にてBと一緒に暮らしてきましたが、Bは自分が亡くなった後のことを心配して、自宅土地建物を私に贈与してくれました。
その後、Bは令和2年8月1日に死亡しました。Bの遺産は、D銀行の預金(1000万円)とE銀行の預金(1000万円)だったのですが、Bが死亡した直後、自宅にやってきたCが、D銀行の通帳を勝手に持ち出して1000万円全額出金して使ってしまいました。
なお、私は現在年金生活をしており、私名義の預金はわずかしかありません。


【相談】
すぐに葬儀費用100万円を用意しないといけないのですが、B名義のE銀行の1000万円の預金は凍結されていて出金できません。Cとは連絡がつかない状態です。預金から100万円出金する方法はないでしょうか。

 

〔改正法施行前〕
最高裁平成28年12月19日判決は、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれると判示し、その結果、遺産分割までの間は、共同相続人全員の同意を得なければ権利行使することができないことになりました。

〔改正法施行後〕 
(1)  共同相続人の各種の資金需要に迅速に対応することを可能とするため、各共同相続人が、遺産分割前に、裁判所の判断を経ることなく、一定の範囲で遺産に含まれる預金債権を行使することができる制度が設けられました(民法909条の2)

(2)  払戻し可能な金額
相続開始の時の預貯金債権の額の3分の1に共同相続人の法定相続分を乗じた金額(個々の預貯金債権ごとに判断します)
ただし、標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とするとされていて、この金額は、法務省令で150万円と定められました。

(3)  回答
E銀行の預金額1000万円の3分の1にAの法定相続分2分の1を乗じた金額は約166万円ですが、上記のように、限度額が各金融機関ごとに150万円と定められていますので、E銀行からの出金限度額は150万円です。
よって、Aは、遺産分割前でも、単独でE銀行から100万円出金することができます(150万円まで出金可能)。この出金額は一部分割によって取得したものとみなされます。

(4)  施行日
施行日は、2019年(令和元年)7月1日ですが、本規定については、施行日前に開始した相続についても適用されます。

 

相続

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